『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』1巻のあらすじ・感想

スーパーの裏でヤニ吸うふたり第1巻の表紙全体と、表題・巻数・著者を別組版で配した横長サムネイル。中央の正方形表示にも表紙全体と表題が収まる。 未分類
『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』第1巻の表紙(著者:地主)。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』1巻のあらすじ・感想

ネタバレあり:1巻の全話と巻末「0本目」の内容に触れています。

この巻の概要

第1巻は、仕事に疲れた会社員・佐々木が通うスーパーで、レジ係の山田の笑顔と、店裏で「田山」と名乗る女性との喫煙休憩に救われながら、少しずつ話し相手を得ていく物語です。佐々木は山田と田山を別人だと思っていますが、読者には二人が同一人物だと明かされます。話を重ねるほど、店員としての顔と喫煙所での素顔、そして8年前の縁が少しずつ浮かび上がります。

収録話のあらすじ

1本目

仕事帰りにスーパーへ寄る佐々木の楽しみは、レジ係・山田の明るい接客です。店の裏で田山と出会い、山田のことをからかわれても、佐々木は彼女の仕事ぶりに元気をもらっているとまっすぐ伝えます。真面目な返事と田山の軽口が、二人の会話の調子を決める出会いの回です。

2本目

田山にからかわれた佐々木は、言い返すつもりで喫煙場所へ向かいます。差し入れた菓子を一緒に食べるうち、次に会うことを自然に約束するような関係に。山田も同じ菓子が好きだとわかる場面は、ここではただの好みの一致です。けれど8本目まで読んで振り返ると、私はこの一致が伏線だったのかもと思えてきます。佐々木だけが二人を別人だと思っている可笑しさと重なり、正体を知った後に読み味が変わる一コマです。

3本目

取引先からのクレームで上司に叱られ、佐々木は仕事帰りも気持ちを切り替えられません。山田の笑顔にほっとし、田山との休憩では弱音を受け止めてもらう。田山が彼の慣れた様子に気づく後日談まで読むと、短い出会いが少しずつ日課になっているのがわかります。

4本目

佐々木は、山田のように人を元気にする笑顔が自分にもあればと思います。田山は、接客の笑顔を練習して身につけたと打ち明けます。最初は別々に見える二人の笑顔が、8本目の種明かしを知ると同じ人の表情として重なります。後日談では、佐々木が職場で笑顔を練習しているところを同僚に見られます。

5本目

仕事でまた嫌なことがあった帰り、山田はレジ越しに佐々木の様子を気にかけます。いつもの接客だけでなく、彼の変化まで見ていることが伝わる一言に、佐々木の表情もゆるみます。後日談にも田山との軽口が続き、心配されたあとの照れくささが残ります。

6本目

喫煙の匂いをめぐる苦情の話から、佐々木と田山は「店員」と「客」それぞれの立場について語り合います。田山は仕事で困ることがあっても、佐々木を責めるのではなく、同じ喫煙者として言葉を交わす。後日談の飲み物をめぐる小さなやりとりも、二人の気遣いを軽く見せてくれます。

7本目

佐々木は煙草の匂いが気になり、店で消臭ミストを手に取ります。田山も仕事で匂いを指摘されたことがあると話し、自分が使っているミストを分けてくれる。勧められたものを使いすぎ、翌日には山田にも気づかれてしまうくだりが、この話の楽しい見せ場です。

8本目

スーパーで山田と後藤が話す場面から、読者には山田と田山が同じ人だと明かされます。佐々木は少し前に店を出ていて、その秘密を知らないままです。私は、この種明かしで2本目の菓子の好みの一致まで別の意味を帯びて見えるのが好きです。あとからあの一致がふっと効いてくる感じも、この巻の楽しさです。二つの顔を結びつけられない佐々木の横で、読者だけに小さな発見が積み重なります。

9本目

佐々木は、いつも会話に付き合ってくれる田山へ携帯灰皿を贈ります。彼女がそれを気に入ってくれたことに安心しつつ、近い距離でのやりとりには佐々木のほうが落ち着かない様子。山田の笑顔を見ると自分まで笑ってしまうと田山に見抜かれる場面も、彼の気持ちをよく表しています。

10本目

ガラケーを使っている佐々木は、田山にスマートフォンの基本操作を教わります。指の動かし方を習って喜ぶ彼が、冗談めかして山田の連絡先まで聞こうとすると、田山は即座に拒否。軽いレッスンが、二人の息の合った掛け合いで思わぬ方向へ転がります。

11本目

店の休憩時間には、山田と後藤が食事や仕事の話を交わしています。佐々木が来店すると、山田はいつもの笑顔で迎え、彼はそれだけで元気になる。レジで交わす短いやりとりが、佐々木にとって一日のご褒美になっていることが伝わる回です。

12本目

後藤は、田山とよく一緒に煙草を吸う佐々木に、彼女のことを気にしていないのかと尋ねます。佐々木は興味がないわけではないと認めますが、その気持ちをどうするかまでは言葉にしません。後藤の直球な問いが、本人も曖昧にしていた関心をすくい上げます。

13本目

煙草の銘柄から性格がわかるのか、という雑談をきっかけに、佐々木と田山は互いの人となりを想像します。佐々木が何かを言いよどんで謝ると、田山は理由を確かめようと顔を近づける。その不意に近い距離に、佐々木が動揺するところが印象的です。後日談では、職場の同僚のからかいが加わり、佐々木の変化を別の角度から見せます。

14本目

家族と過ごした帰りにスーパーへ立ち寄った佐々木は、山田の笑顔を見ていつものように気持ちがほどけます。喫煙所では暑さの話から田山の服装に目が向き、彼は視線の置き場に困ることに。田山が平然と距離を詰めてくる対比が、親しさと照れを同時に生みます。後日談にも、佐々木の目の前では見せない田山の思考がのぞきます。

15本目

長い連勤を終えた佐々木は、雨の中で田山に会います。疲れを隠しきれない彼を座らせ、田山は様子を気づかう。ネクタイを直すために手を伸ばす場面には、いつもの冗談とは違う静かな親密さがあります。後日談では、田山が佐々木の似顔絵を描いてしまったと気づき、意識してしまう姿も描かれます。

16本目

健康診断の結果を待つ佐々木は、重い病気かもしれないと不安を募らせます。田山も、自分との喫煙が彼の体調に影響したのではないかと気にかける。誤診とわかって二人が安堵したあと、田山は何かを言いかけますが、佐々木の冗談で話は途切れます。後日談の店員同士の会話も含め、彼女が佐々木との休憩を続けたい気持ちが伝わります。

0本目

巻末の「0本目」は8年前の回想です。新人だった山田は、理不尽な苦情を受けて接客に自信をなくしかけていました。客として訪れた佐々木は、彼女を一方的に責める相手に反論し、仕事ぶりを認めます。山田がその客の顔を覚えているかは明言されませんが、当時の言葉は彼女を支えていました。現在に戻ると、山田は後藤にその客のことを尋ね、後藤は覚えていないと返します。二人の縁が、現在の喫煙所での出会いより前から始まっていたとわかる回です。

この巻の感想

私はこの巻の「笑顔」を、最初に思っていたよりずっと仕事の場面として読み返した。山田の笑顔に救われる佐々木と、接客の笑顔を練習して身につけたと話す田山。この二つが同じ人の姿だと知ってから、佐々木も職場で笑顔を練習して同僚に見つかる後日談を読むと、彼の憧れがすぐに真似になってしまうところが可笑しい。もしかすると佐々木が憧れたのは、ただ人を元気づける表情だけではなく、誰かを迎える笑顔を自分で作り、仕事を続ける田山の姿勢なのかもしれない。そう考えると、レジの笑顔も二人の休憩も、誰かが毎日やっている小さな仕事として見えてくる。

その読み方を変えたのが巻末「0本目」だった。新人の山田が理不尽な苦情を受け、自分の接客を責めてしまうところへ、佐々木は割って入り、彼女が接客を続けたい気持ちを支える言葉を渡す。現在に戻ると、山田は後藤にその客のことを尋ね、後藤は覚えていないと返す。山田がその顔をはっきり思い出せているかは語られません。私は、彼女に残ったのが顔より言葉なのかもしれないところに、少し寂しさと心強さを感じます。佐々木自身も助けたつもりはなかったようで、その言葉に見返りを求める様子もありませんでした。それでも、その場限りのつもりで差し出した言葉が、相手のその後を支えることもあるのかもしれません。

そして「16本目」では、佐々木の健康診断の誤診がわかったあと、田山が休憩を「このままふたりで」続けたいと言う。私はこの言葉を、恋の告白の予告としてだけでなく、仕事の顔を脱いで煙草を吸うこの時間を、二人とも手放したくないという願いとして受け取った。佐々木は店員の山田と喫煙所の田山をまだ結びつけられず、山田が当時の客の顔を覚えているのかも、はっきりしません。2本目のお菓子の一致が8本目の種明かし後に重なって見えるのも、正体を知らない二人を読むこちら側にだけ、小さな気づきを積み重ねていく。私はその視点の差を、謎解きの快感というより、相手のことをまだ知らない二人の時間に読者だけが相乗りする感じとして味わった。読者だけに見える過去を、二人に急いで説明してほしい気もする一方、答え合わせより先に、明日も同じ場所で交わす会話が続いてほしいとも思う。記憶は片方に残らなくても、互いの「またここで」を積み重ねれば十分なのかもしれない。そう願いたくなる余韻が、この1巻にはあった。

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